平成20年度「官民パートナーシップ確立のための支援事業」
照葉樹林研究フォーラム
~森と水~
開催報告
 2009年1月12日(祝・月)綾川荘にて、照葉樹の森、そして川や水に関する研究フォーラムを開催しました。このページでは各発表者の発表要旨及び、発表時に使用したパワーポイントデータをPDFファイルにてダウンロードできます。
研究発表1
「照葉樹林の多様性」

兵庫県立大学 服部 保 氏
照葉樹林とは
 照葉樹林の種多様性を論じる前に,「照葉樹林の特質は何か」,「照葉樹林と常緑広葉樹林とは何が違うのか」といった照葉樹林の定義について解説したい。
 年間を通じて緑の広葉を持つ常緑広葉樹の優占林は常緑広葉樹林とよばれ,この樹林は3つのタイプに区分することができる。一つは,熱帯の多雨気候下に成立し,高さ50mにも達する超出木を持つ熱帯雨林である。二つめは,冬雨型の地中海性気候下に生育するオリーブのような乾燥に耐える小型の葉を持った樹木より構成される硬葉樹林である。残りの一つが熱帯の山岳地帯やフロリダ半島,東アジア,カナリア諸島,ニュージランドなどの比較的気温が高く,また雨の多い地域に広がっている照葉樹林である。照葉樹林という用語の語源はBrockmann-Jerosch und Rübel(1912)に始まる。彼らは,熱帯雨林でもなく硬葉樹林でもないカナリア諸島,日本などの常緑広葉樹林を「Laurilignosa」と命名している。中野(1930)はそれを照葉樹林と訳したが,「Laurilignosa」には照葉という意味はなく,正確に訳すとローレル(ゲッケイジュ)林となる。中野(1930)はシイ-カシ-タブ林の構成種の多くが,硬葉樹にはないテカテカと光るクチクラ層の発達した葉を持つことに注目して「照葉樹林」と意訳したと考えられる。国内においては照葉樹林文化論の影響もあって,「照葉樹林」という用語はほぼ定着しているが,「照葉樹林」の分布域がヨーロッパから遠いこともあって英名は統一されておらず,subtropical rain forest,evergreen broad-leaved forest,warm temperate rain forestなど様々な用語が用いられており,現在も混乱は続いている。今西・吉良(1953)は照葉樹林という和名は用語として適切であるとして,それを英訳した「lucidophyllous(lucidophyll)forest」を照葉樹林の英名として提案している。私もそれを適切な英名と考えている。

照葉樹林の構成種数
 照葉樹林の種組成については多くの研究者によって進められ,照葉樹林の群落体系や各群落単位の標徴種・識別種あるいは主要な構成種は明らかにされている。しかし,照葉樹林を構成する種の全体像,あるいは構成する種は何種類なのかといった問題には手がつけられていなかった。多くの種が絶滅に瀕している今日,照葉樹林を構成している種も例外ではなく,保全対策が必要であるが,構成種の実態が明らかにならないと照葉樹林の種多様性保全が進まない。このような現状から照葉樹林を構成する種の目録の作成を開始した。最初に照葉樹林構成種を定義し(服部・南山,2001),照葉樹林に関する各種文献を参考に種を抽出したところ,国内の照葉樹林構成種は1008種であることが明らかとなった(Hattori et al.,2004)。現在も岩槻先生によるシダ植物の再検討などの修正を進めているが,国内の照葉樹林構成種は1000種前後であることはまちがいない。国内の総植物種数は約7000~8000種といわれているので,照葉樹林構成種の割合は12~14%とかなり高い比率となるが,夏緑林構成種数,亜高山・亜寒帯針葉樹林構成種数,草原構成種数などの他の生態系構成種数が明らかになっていないので,残念ながら現段階では他の生態系との詳細な比較はできない。照葉樹林構成種を生活形や系統分類群で区分した結果を表1に示したが,照葉樹林の骨格を構成する照葉樹(高木,小高木,低木)の合計は280種と意外に少なく,全体の28%前後にすぎない。それに対してシダ類は316種(木生も含む),ラン類は167種,その他の草本類は165種,草本類の合計は643種(64%)となり,照葉樹林構成種の中で草本類,特にシダ類が多いことがわかる。着生・寄生・腐生といった特殊な生活形の植物も170種と多く,着生,寄生,腐生植物の存在は照葉樹林の種組成を特徴づける要素の一つになっている。
 照葉樹林構成種1008種のうち絶滅に瀕している種は何種あるのだろうか。環境庁(2000)の絶滅危惧種(IA,IB,II,NT)のなかの照葉樹林構成種の種数およびその割合を調べてみるとそれぞれ321種,32%であることがわかった。国内全体では絶滅危惧種の割合が約25%であるので,照葉樹林構成種はより危機的状況にあると言える。分類群,生活形でみるとその割合はラン類の66%,シダ類の25%,カンアオイ類の67%,着生・寄生・腐生植物の53%であった。照葉樹林構成種の約1/3,特定の群では1/2から2/3は,絶滅が危惧される状態にあり,それらの種を保全するためにはまず照葉樹林そのものの積極的な保全が必要となっている。
照葉樹林の種多様性と環境要因
 さて,照葉樹林の種多様性・種の豊かさはどのような要因に依るのだろうか。図1には沖縄県から岩手・秋田県までの各県に分布する照葉樹林構成種数と各県のもっとも温暖な地点での最寒月の月平均気温の関係を示している。これを見ると種数と気温の相関は非常に高く,照葉樹林の種多様性は第一に気温の影響を受けていることがわかる。地形,地質,海抜,潮風,面積,撹乱などの様々な要因によっても種多様性は大きな影響を受けており,その実態を現在調査している段階であるが,いくつかの事実が明らかになった。
 第一は種多様性と面積の関係で,面積が大きいほど種多様性は高くなるという当然といえば当然の事実がわかった。照葉樹林は社寺林として保存されていることが多いが,その面積は一定ではなく数100㎡から数10haまで様々な規模で残されている。面積規模は様々であるにもかかわらず,良好な照葉樹林の外観を有す社寺林は例え小面積であっても原生状態であり,その地域の自然環境を反映した種組成を持っているという先入観が我々植生学の研究者には存在した。しかし,ある時に小面積の社寺林に大面積の社寺林と同じ程度の照葉樹林構成種が生育可能かどうかという疑問を抱き,面積と種数の関係について調査を開始した。宮崎県と兵庫県における社寺林の面積と各社寺林に出現した照葉樹林構成種数についての調査結果を図2に示した(服部・石田,2000)。両者の対応関係は非常に明瞭であって,大面積ほど種数は多くなるが,このことは小面積の社寺林(大半の社寺林がそれにあたる)は気温,地形,地質といった自然環境条件だけでなく小面積による構成種の単純化という影響を受けていることになる。この事実は小面積の社寺林の重要性を否定するものではないが,群集単位の決定や地域の原植生,潜在自然植生の推定を行うときには十分注意しなければならない。図2の回帰式を用いるとその地域の照葉樹林フロラを維持するのに必要な照葉樹林の面積の算出が可能となる。現段階では回帰式のモデルによってその面積にはかなり差が生じるため,今後の検討が必要である。なお,各府県とも照葉樹林フロラを維持するのに必要な面積以上の照葉樹林が残存しているので図1の気温と種数の相関関係が成立することになる。
照葉樹林の種多様性は地形などの立地条件とどのように対応しているのだろうか。照葉樹林の種多様性を評価あるいは比較するためには種数-面積関係からも調査の面積を一定にする必要がある。調査面積を一定にした上で,様々な照葉樹林の種多様性を比較してみた。調査面積は15m×15m(225㎡),または10m×10m(100㎡)を使用してきたが,近年では100㎡を用いている。鹿児島県栗野岳における海抜条件による種多様性は低海抜より高海抜に向けて,宮崎県綾町における地形条件による種多様性は斜面下部より尾根に向かって,沖縄県西表島における潮風条件による種多様性は内陸部より海岸部に向けて,いずれも低下した(服部ほか,2000;服部ほか,2003;服部ほか,1987)。種多様性の高い立地は,低海抜,斜面下部,潮風の影響のない内陸部ということになるが,このような立地はほとんど改変されていて,照葉樹林は残されていない。
照葉樹林のギャップ相と成熟相の種多様性
 最後に,照葉樹林の種多様性について興味深い事実を示したい。照葉樹林は,台風等によって林冠の破壊されたギャップ相,回復段階の建設相さらに老齢樹より構成される成熟相の混在するモザイク状の群落複合体である。ギャップ相と成熟相の種多様性については,定説として次の2点が知られていた。ギャップ相における陽地生植物による種多様性の高さと,成熟相における照葉樹林構成種の種多様性の低さである。ところが私達の調査では,ギャップ相は地上生植物に限ると陽地生植物だけでなく照葉樹林構成種の種多様性も,成熟相よりも高いことが明らかとなった。林冠や階層構造が発達した照葉樹林の中核である成熟相よりも,林冠がなく倒木等で撹乱されたギャップ相の方が地上生照葉樹林構成種が多いという事実はおもしろい。それではもう一つの定説である成熟相の種多様性の低さは正しいのであろうか。同じ調査の結果,成熟相は着生植物によって地上生植物種の減少分を取り戻していることがわかった。表1をみると大径木に着生する可能性が大きい着生植物は112種もあり,成熟相は着生植物によって十分に種多様性が維持できる。調査中にはなかなか見つけにくい腐生,寄生植物も老齢林に多いので,成熟相は着生・寄生・腐生植物によって種多様化が維持されていると言うこともできよう(服部ほか,2004)。
参考文献
Brockmann-Jerosch, H. und Rübel, E.(1912)Die Einteilung der Pflanzengeselschaften. Wilhelm Engelmann, Leipzig, 72p.
服部保・石田弘明(2000)宮崎県中部における照葉樹林の樹林面積と種多様性,種組成の関係.日本生態学会誌,50:221-234.
服部保・南山典子(2001)九州以北の照葉樹林フロラ.人と自然,12:91-104.
服部保・宮城康一(1987)西表島の照葉樹林の生態学的研究Ⅱ.種類組成と潮風条件.中西哲博士追悼植物生態・分類論文集,27-40.
服部保・ほか(2000)鹿児島県栗野岳の照葉樹林における標高傾度に対する構成種,種多様性の分布.人と自然,11:13-41.
服部保・ほか(2003)宮崎県綾町川中における微地形条件に対する照葉樹林構成種及び種多様性の分布.植生学会誌,20:31-42.
服部保・ほか(2004)照葉樹林成熟相とギャップ相の種組成および種多様性の比較.日本生態学会誌,54:11-24.
Hattori,T. et al.(2004) Flora of the lucidophyllous forest in Japan. Nature and Human Activities, 8:13-47.
今西錦司・吉良竜夫(1953)生物地理.自然地理Ⅱ,朝倉書店,東京,235-313.
環境庁(2000編)改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-8.植物Ⅰ.自然環境研究センター,東京,660p.
中野治房(1930)植物群落と其遷移.岩波書店,東京,120p.

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研究発表2
「台風が来たときの照葉樹林の被害について」

森林総合研究所 齊藤 哲氏
はじめに
照葉樹林には多様な生物が暮らしています。また照葉樹林文化論に代表されるように私たち日本人の生活とも深い関わりのある森林でもあります。しかし,日本において成熟した照葉樹林が良い状態で残されているのは,南九州の一部や離島などわずかな地域に限られています。綾町もまとまった面積で照葉樹林が残っている貴重な地域のひとつです。綾照葉樹林保全プロジェクトの活動からもわかるように,こうしたわずかな照葉樹林を保全・修復する動きが高まりつつあります。
日本の照葉樹林は台風が頻繁に通過または接近する地域にあり,台風の影響を強く受けている森林といえます。そのため,照葉樹林の保全・修復にあたっては,台風の影響を十分考慮する必要があります。例えば,樹種による台風被害の受け方の違いは,その後の森林の種組成や動態にも影響を及ぼします。九州の照葉樹二次林ではそれまで最も多かった(優占していたといいます)コジイが台風により大きな被害を受け,代わりに被害が軽微であったイスノキやカシ類などの樹種の占める割合が高まった事例が報告されています。裸地から安定した森林に移り変わるまでの数百〜数千年という長い植物群落の移り変わりを植生遷移といいます。照葉樹林の遷移の中では初期にコジイが優占し,やがてイスノキやカシ類などに移り変わっていくと考えられています。つまりこの場合,台風によって照葉樹林のなかで優占する樹種が交代する植生遷移が加速されたということができます。このように,照葉樹林を構成する種について被害の受けやすさの特徴を整理しておくことは,照葉樹林を保全・修復していくうえで重要な情報となるはずです。
今回は,綾リサーチサイトという照葉樹林の長期生態観測のための固定試験地で20年近く継続してきた調査結果をもとに,1)照葉樹林と他の森林群落と比べた場合,被害の受けやすさに違いがみられるか,2)照葉樹林内でも樹種によってどのような被害の受けやすさ/受けにくさがあるか,というお話を紹介します。

綾リサーチサイトで実施している調査,および解析方法
綾リサーチサイトは大森岳山塊の綾北川流域の北〜北東向き斜面(九州森林管理局宮崎森林管理署管内中尾国有林2093林班)にあります。そこに1989年に200m×200m(4ha)の調査枠を設定し、その中の高木種・亜高木種を対象に調査しています。ここでは様々な調査をしていますが,今回は人の胸の高さ(地上高約1.3m)の幹の直径が5cm以上のもの(これを成木ということにします)を対象としたデータについてのお話です。綾リサーチサイトでは成木に番号のついたアルミニウムプレートをつけ,2〜4年ごとに生残や直径成長などを調べています。綾リサーチサイトは1993年に強い台風13号(宮崎市の最大瞬間風速の記録は57.9m/s)の被害を受けました。台風によって森林が破壊されることを一般に台風撹乱といいます。2004年(同44.3m/s),2005年(同43.1m/s)にも中規模の強さの台風撹乱を受けています。定期的に樹木の調査をしているので台風前後の個々の樹木の状態がわかり,台風によってどの木がどんな被害を受けたか把握することができました。被害の程度は,台風前に生きていた木の本数に対する被害木の本数割合(%)で表しました。綾リサーチサイトを構成する全樹種をまとめた全体の被害割合と,それぞれの樹種の被害割合を求めました。全体の被害割合については,これまでの様々な台風撹乱の報告から算出した様々なタイプの森林群落の被害割合と綾リサーチサイトの結果とを比較しました。それぞれの樹種については,綾リサーチサイト内で比較しました。ある樹種の被害が大きかったのは偶然か,それとも樹種の特徴として被害を受けやすいのかを判断するため,綾リサーチサイトで起こった3回の台風撹乱について同じ傾向があるかを調べました。
照葉樹林とほかの森林群落との比較
綾リサーチサイトでは1993年の台風13号によって,幹折れ,根返り,幹傾き,幹湾曲など様々なタイプの被害形態がみられました。強風による直接被害を受けたと考えられるものや,倒木の下敷きになるなどの間接的な被害を受けたものもありました。台風13号で群落全体の10.2%の幹が何らかの被害を受けました。1993年の台風13号は宮崎地方気象台で観測史上最も大きい最大瞬間風速を記録するなど非常に強いものでした。推定では約100年に一度の規模の強さであったと報告されています。このように強い台風で被害割合が10.2%であったということは,かなり軽い被害であったと考えています。図-1は世界の様々な森林群落における台風(ハリケーン,竜巻なども含む)撹乱に関する報告から,撹乱の原因となった強風の最大瞬間風速と幹折れ+根返りの合計被害割合との関係を示したものです。この図から全体的に風速が大きくなれば被害割合も大きくなる傾向が見て取れます。一般に風速が大きくなれば被害も大きくなるのは当たり前の話です。しかし,図-1では,小さい風速でも被害が大きいケースもいくつかみられます。被害割合は単に風速だけで決まるわけではなく,森林タイプの違いとか,樹木の混み具合とか,土壌が深いか浅いかなどによっても違ってきます。図-1をみると,照葉樹林群落(黒または灰色の丸)の被害割合は小さいところにあります。台風常襲地域に分布する成熟した照葉樹林は台風に対する抵抗性を持った森林群落といえるかもしれません。
照葉樹林群落内の樹種による被害の受けやすさの違い
綾リサーチサイトを構成する樹種によって1993年台風13号の被害割合は大きく異なりました。風による直接幹折れまたは根返りした被害割合はイスノキ(2.3%),サカキ(3.1%)で小さく,イヌガシ(10.5%),タブノキ(13.4%),マテバシイ(19.1%)などで大きい結果でした(図-2)。このような樹種よる被害割合の大小は2004年,2005年の台風でも同様の傾向がみられました。つまり,1993年台風13号の被害割合の大小は偶然の結果ではなく,それぞれの樹種がもっている台風被害の受けにくさ/受けにやすさを反映した結果であったと考えることができそうです。
イスノキやサカキは南九州の成熟した照葉樹林で本数的に最も優占する樹種のひとつです。綾リサーチサイトでもイスノキが370本/haと最も本数が多く,サカキが262本/haとそれに次いでいます。成熟した照葉樹林は被害を受けにくい樹種が優占する種構成・構造になることと,群落全体の台風に対する抵抗性が高いこととは関係があるのかもしれません。

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研究発表3
「森と川と海をつなぐ市民活動と
教育・研究活動 (森の健康診断)」


中部大学 寺井 久慈 氏
「森の健康診断」の広がり
 「森の健康診断」はスギやヒノキの人工林が適切に管理されているかどうかを100円ショップグッズで測定して森の健康度を診断する手法である。枝打ちや間伐などの管理が適切に行われていれば、植栽木は樹齢相応に太く、樹冠からは陽光が差し込み、下層植生が多様で腐植層も厚く発達し、雨水の土壌浸透もよく、土砂災害を防止するとともに森林の洪水調節機能が発揮される。逆に管理放棄された状態では森は暗く、線香林と呼ばれる細い樹木が密生し、下層植生や腐植はほとんどなく、根が地表に浮き出した状態で、雨水が地面に滲み込まず、大雨が降ると土砂災害や洪水が起こりやすくなる。今、日本の森ではこのような管理放棄された人工林が多く、台風や大雨により各地で山林崩落や洪水が起こりやすくなっていることが懸念されている。
2005年6月、愛知県豊田市を含む矢作川上流域で「第1回矢作川森の健康診断」が実施された。続いて同年10月、岐阜県恵那市周辺地域で「第1回土岐川・庄内川源流 森の健康診断」が実施された。2008年6月、10月にはそれぞれの地域で第4回森の健康診断が実施されている。矢作川水系森林ボランティア協議会が先導して始まった森の健康診断は、その後愛知県豊川、三重県鈴鹿川、岐阜県長良川の各流域、長野県安曇野市、滋賀県琵琶湖周辺の各地、京都府、熊本県、佐賀県など全国に広がっている。
森や海の状況から山・川・里・海の再生を目指す
愛知県では2000年9月に24時間で400~500mmの集中豪雨があり新川、天白川、矢作川などが決壊する洪水が発生し、矢作川上流域では山林崩落が起こった。また、2004年9月には台風21号の影響により三重県宮川村で24時間に400~500mmの集中暴雨があり、宮川村で山林崩落が起こった。
一方、この時期には、これらの河川が流入する伊勢・三河湾で海底の酸素が30%以下で魚介類が生息できなくなる貧酸素水塊の発生が問題となっていた。貧酸素水塊の原因としては、①河川を通じた陸域からの窒素やリンなど栄養塩の流入負荷の大きさ、②沿岸の干潟や浅海域の埋め立て(そのための海底の浚渫による深場形成)、③ダムや堰の取水による河口からの淡水流入量の減少などが考えられる。
三河湾でこのような貧酸素が発生しているとき、台風が来てその貧酸素水が干潟に打ち上げられて(青潮・苦潮)三河湾最奥部の六条潟のアサリが壊滅的打撃を受けることがしばしば起こっている。伊勢湾最奥部の藤前干潟はゴミ処分場としての埋立てを免れて2002年11月にラムサール条約に登録されたが、このままでは伊勢湾の貧酸素水により干潟生物が壊滅的打撃を受ける危険性がある。従って伊勢・三河湾を底生魚介類が生息できる豊かな海に再生しないかぎり藤前干潟などの干潟生態系の保全はできないことになる。そこで特定の生態系のみを保全するのではなく流域全体の視点から山・川・里・海の関わりを把握して、市民参加・研究者参加型の流域調査手法を確立し、産・官・学・民の協働で山・川・里・海の再生事業を目指して2005年1月に伊勢・三河湾流域ネットワークというNPO組織が立ち上がった。この組織が立ち上がる前に2004年8月に伊勢・三河湾の貧酸素状況を市民参加で調べようということで、伊勢・三河湾に流入する100の河川の河口で「海の健康診断―ひんさんそ大調査」が実施された(この企画・実施・結果のまとめは村上哲生先生が中心になって行なわれた)。
「土岐川・庄内川源流 森の健康診断」の特徴
2005年3月に愛知万博が開催された。当初の会場予定地の「海上の森」の自然生態系がある程度保全され、森や自然環境に対する一般市民の関心が盛り上がっていた。中部大学でも「森から人へ~いのちの水脈」と題する9回連続公開セミナーを開催し、森と人、森と川、森と海のつながりについて専門家に講演をお願いした。この中で第1回矢作川森の健康診断実施直後に「庄内川源流プレ森の健康診断」というフィールドワークを組み込んだところ、何と150名が参加するぐらい盛況であった。これがきっかけとなり庄内川上流と下流の交流がはじまった。
「森の健康診断」の本家である矢作川に対して土岐川・庄内川源流の森の健康診断の特徴は第一に上流域の森林組合のトップが積極的に実行委員会段階から参加されていること、第二に中部大学の恵那キャンパスを拠点として集合・集計を行なうとともに中部大学生が多数参加して水の浸透能実験を実施していることである。学生は卒業後も参加するものも含めて第1回の45名から第4回の87名まで年々増加している。第三の特徴は上流と下流の交流が恵那市と清須市の行政レベルの交流にまで発展していることである。第1回の「森の健康診断」は矢作川からチームリーダーを借りて実施したが、第2回からは夕立山森林塾で自前のリーダーを養成しており、第3回からは学生のチームリーダーも出てきている。
「森の健康診断」も既に4回実施しているが当初から10年間実施する予定である。
実施領域を広げていくか、今までの領域を詳細に精査するか、毎年実行委員会で検討しているが、「第4回土岐川・庄内川森の健診」では地元の要望で断層地帯で土砂災害の危険性の高いところと水道水源の森を精査するということであった。
この結果を分析した上で第5回について検討することとなる。
「森の健康診断」と教育・研究
既に「森の健康診断」そのものを卒業研究のテーマとして取組み、健康診断のデータから人工林の管理状況についてまとめたものや水の浸透能実験と持ち帰った土壌サンプルの分析から得られた飽和透水係数の関係をまとめたものなどが卒論となっている。私のところでは「森の健康診断」の結果で明らかとなった適正人工林と超過密な非管理人工林について渓流水を採取し、「森は海の恋人」物質であるフルボ酸量に違いがあるかどうかを調べて、併せて恵那キャンパスの落葉広葉樹林と綾の森の照葉樹林と人工林でもフルボ酸量やそれに含まれる金属鉄の量の違いについても調べている。今のところ流域が広葉樹の方が針葉樹より渓流中のフルボ酸量が多いという傾向が認められてる。

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研究発表4
「川の市民調査

名古屋女子大学 村上 哲生 氏
はじめに ―なぜ市民が調査しなければならないのか?―
川の自然を損なった者、また自然を損なう可能性を孕む事業を計画する者が、自らの責任で環境影響を調査し、将来予測とそれに基づく対策を講じる義務があるという原則は、1960年代頃から始まる公害、環境問題の歴史の中で、私たちが得た重要な教訓でした。
 では、環境を破壊した加害者でもなく、場合によっては被害者にもなる市民が、自分の時間と費用を投じて川の調査をするのはなぜでしょう。川の自然の仕組みや、人が及ぼす干渉が川をどう変えるかについては、現在のところ、十分な科学的な知識が揃っているわけではありません。事業者に義務付けられた調査も、市民が知りたい全てを網羅したものからはほど遠い現状では、川を変えようとする者も、それに懸念を持つ者も、それぞれの立場で、川を知るための知識を蓄え、その結果に基づき、公開された場での議論を経て、合理的で現実的な妥協点を探す必要があるのです。科学的な手続きを踏んで集められた観測データは、事業者と市民の議論の場での共通の言語として機能するはずであると、私は考えます。
 私が「市民調査」を提案するのは、
1) 市民自身が川をもっとよく知るため、
2) 行政などの事業者の情報を引き出し科学的な議論をするため、
3) 合理的、現実的な合意に至るため

なのです。

1.市民調査の事例紹介 
―簡単な調査でも意外なことがわかる―

川や、川が注ぐ内湾での市民調査の実例を紹介します。簡単な調査であっても、長期間続ける、広域的に一斉観測を実施する、降雨などの環境激変時に即応するなどの工夫で、行政や研究者が捕らえられない自然の姿がわかります。

事例1. 木曾三川一斉透視度観測
 東海地方の木曾三川の各地、数十箇所で、同時刻に一斉に濁りを測定することにより、その分布がわかりました。常識ではきれいな水が流れていると思われる上流部での意外な濁りは何が原因だったのでしょうか。

事例2. 球磨川・川辺川終夜観測
 「ダムがある川では、濁りが長期化する」は、本当か?  球磨川・川辺川水系 (熊本県) を対象として、市民の手による、2日以上の連続観測で、この問題を明らかにしました。

事例3. 天竜川の濁りの毎日観測
 天竜川 (長野県、静岡県) も、ダムの影響が大きい川です。天竜川漁業協同組合は、8年以上にわたり、毎日濁りを観測し、ダムのある川では、水が澄む日数がごく少ないことを実証しました。8年の観測で、肉眼で水の濁りが見られない日数は何日だったでしょう。

事例4. ありあけ大調査
 諫早湾潮受堤防の建設により、有明海の海底の酸素が少なくなり、沿岸漁業の危機が叫ばれる中、漁師さんの協力により、有明海に多数の漁船を浮かべて、一斉に酸素を測定しました。海底近くの深い場所の水を汲む工夫など苦労しましたが、潮受堤防付近で、海底の酸素濃度が低くなることがわかりました。

事例5. 伊勢・三河湾貧酸素調査
 伊勢・三河湾沿岸で、一斉に酸素や水の色などを測定しました。背後に都市が発達している湾奥での貧酸素を観測することができました。行政が観測している資料や、公開されている気象情報などを組み合わせると、さらに様々な現象を説明付けることができます。
2.市民調査の成否
紹介した事例の全てがうまく行ったわけではありません。市民調査を成功させるには、次のような要件が必要であると考えます。

1) 市民調査の目的を十分に理解すること
切実な事態である場合、目的が一言で説明できる場合にうまくいくようです。

2) 現場を十分に理解すること
現場の環境、動員できる人や機材、資金を客観的に把握しておくこと。

3) 親切なマニュアルを作ること、親切すぎるマニュアルを作らないこと

4) 参加者 (市民、行政、研究者) が公平な立場で議論できる雰囲気を作ること
3.市民モニタリングの新しい動き 
―モニタリング1000事業 (里山) の紹介―

環境省が、新しい長期自然観測事業をスタートさせました。全国1,000箇所で、100年間、環境の推移を見ていこうというものです。分野によっては、専門家のモニタリングが主ですが、里山では、市民の目による観測を重視し、鳥、哺乳類、蛙、蝶、植物、水環境等を、統一したマニュアルに基づき監視します。既に全国のコアサイト (重点的な調査地点、原則として各気候帯に一つ)、一般サイト (市民の参加希望があった地点) での観測が始まりました。里山のモニタリングについては、(財) 日本自然保護協会が窓口になっています。
おわりに ―まず観測、観察を始めよう―
 身近な水辺で、簡単な調査 (例えば水温や水の色の観測) から始めてみましょう。場所や時間を変えて調査を続ければ、今まで気づかなかった自然の姿が見えてきます。さらに詳しく知りたくなったら、専門家にも相談してみましょう。真摯に自然を知ろうとする市民に対して、援助は惜しまないはずです。

(演者連絡先) 〒467-8610 名古屋市瑞穂区汐路町3-40 名古屋女子大学
      TEL; 052-852-9739 (研究室直通)、E-mail; murakami@nagoya-wu.ac.jp


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総合討論
研究発表終了後、参加した市民と講師陣の間で意見交換が行われました。
宮崎ではごく身近にある照葉樹の森。
冬でも、青々と葉が茂り、清らかなせせらぎが絶えることがありません。
このような森や川について、学んでみませんか。
■2009年1月12日(祝・月) 10:00AM~1:00PM(受付開始は9:30AM)
■会場 宮崎県綾町 綾川荘 綾川荘 綾町北俣5539 TEL0985-77-0070
■参加費:無料(事前に事務局までお申し込みください)
■主催 てるはの森の会・照葉樹林研究フォーラム実行委員会
■共催 綾町・綾の照葉樹林プロジェクト連携会議

プログラム概要
発表タイトル 発表者
「照葉樹林の多様性」 服部 保 (兵庫県立大学)
「台風が来たときの照葉樹林の被害について」 齊藤 哲 (森林総合研究所
「森と川と海をつなぐ市民活動と教育・研究活動(森の健康診断)」 寺井 久慈 (中部大学)
「川の市民調査」 村上 哲生 (名古屋女子大学)
総合討論
フォーラム終了後の13:00から15:00まで、講師の先生との自由討論や市民調査の個別相談などができる時間を作りました。身近な川や森を調べてみたいけれど、何を調べたらよいかわからない、調査道具が必要なのだろうか、といった相談にのってくださいます。
■ 照葉樹林研究フォーラムに関するお問い合わせは
  
     てるはの森の会
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     TEL 0985-35-7288 FAX 0985-35-7289
     Eメール:teruha@miyazaki-catv.ne.jp
     ホームページ:http://www.teruhanomori.com/